幹部自衛官、つまり士官・将校を養成する学校で、凄惨なイジメが明るみになった。僕がいた時はこんないじめは無かった。指導はあったが、常識の範囲内だったし、何より愛があった。配属されたのがたまたま良い中隊だったのかも知れないが。
防衛大では4年生が「神」、3年生「人間」、2年生「奴隷」、1年生「ゴミ」と言われる。学生隊内の指導は、上級生が下級生に対して行われ、これは制服組自衛官の”聖域”。文官である役人や、教員はタッチできない。ここに問題の本質がある。
防大の教育環境は非常に恵まれていて、文系も理系も、日本最高峰の教員を民間から広く招聘し、最新鋭の設備の中で研究ができる。最高にアカデミックな環境が整っていると言って過言ではない。にも関わらず、学生隊内の作業や上級生からの指導が苛烈過ぎて、勉強できる環境でないのが実情。実際、学生舎(寮)は「戦場」、教室は「非武装地帯」などと言われ、「戦場」での掃除やアイロン、反省文で疲れ切った下級生が、「非武装地帯」での授業中、居眠りする光景が後を立たない。当然教員からは改善要望の声があがるが、学生隊内の指導は制服組の所管なので、関与できない。ある意味、民間から招聘される学校長より、現役自衛官の幹事(陸将←めっっっちゃ偉い)や訓練部長(海将補←めっっちゃ偉い)の方が権限を持つ。学生隊の指導教官(若手の幹部自衛官)も、上官の言う事は聞くが、文官や教員の言う事には耳を貸さない、とまでは言わないが、正面から向き合うことはない。学生舎内で横行するパワハラまがいの指導にも「自分も過去に受けた仕打ち」「理不尽に耐える事は必要」と大目に見てしまう。確かに戦場や被災地は、想像を絶する理不尽の連続であろうが、いじめやパワハラに耐える事で、その理不尽に打ち克つ精神力が養われるとは到底思えない。
いまの防衛大学校長は、慶應義塾大学法学部長から転じた国分良成先生。僕も慶應では先生の中国政治論の講義を拝聴したが、素晴らしい教育者だった。今、その心中は察するに余りある。もどかしくて堪らないにちがいない。