
台北の信義区を歩くと、やはりテンションが上がる。
ビルは高い。街は綺麗。ブランドも揃う。
しかも最近は、数字も強い。
2025年の台湾GDP成長率は 8.63%。
すでに一人当たりGDPは日韓に比肩し、経済は十分に成熟しているにもかかわらず、開発途上国のような圧倒的経済成長率。
AI投資が活況のいま、半導体が牽引する台湾経済は絶好調である、と日本の経済ニュースはだいたいここで終わる。
しかし実際に台北の街を歩き、繁華街から一歩だけ路地に入る。
急に、生活の匂いが濃くなる。
家賃。物価。将来。
景気のニュースは派手でも、「別にラクになってない」層が多くいる。
1. 経済:景気の“気分”が、半導体に引っ張られすぎる
台湾の稼ぎ頭は当然、TSMに代表される半導体。
TSMCが全国の中小企業に血液(利潤)を配って、産業全体が潤ってるわけでない以上、”台湾は景気いいから、みんなバブっている”といったシンプルな話ではない。
- 給料が高い仕事が、一部の産業に寄る
- 優秀な人材もそこに寄る
- お金もそこに寄る
- そして都市の住宅コストが上がる
- 給料が上がりにくい層ほど、生活がきつくなる
つまり、景気が良い=暮らしが楽にはなるわけでは必ずしもなく、むしろ二極化が進みやすい。
さらに、長期スパンで見ると、今の“一強感”がそのまま続く前提は置けない。
世界各国が、ビジネスであると同時に安全保障として、半導体を自国で作ろうとしている。
「世界一を独走」の状態をどれだけつづけられるか。
その時に効いてくるのが、次の問題。
2. 社会:出生数と住宅が、若者の人生を削っていく
ここが一番重い。
2025年、台湾の出生数は 107,812人。
出生率は驚異の0.72(日本は1.21)、韓国と最低を競り合ってる、危機的な状況。
出生数は前年2024年の 134,856人 から大きく減り、10万人台まで落ちた。30年前は30〜40万人いたのに、10万人。
一般的に中華圏では、縁起の良い辰年は出生率が上がり、あくる年の巳年は下がるのが常だが、それを勘案しても、さすがに減少幅が大きすぎる。
出生率は、世界各国が止められないトレンドだが、台湾が厳しいのは、住宅コストがセットで刺さっている事。
台北の住宅価格は「年収の何倍か」で見ると分かりやすい。
台北の住宅価格/所得倍率は約16倍(16.36〜16.43倍という水準)。
若い世代の感覚に直すと、こうなる。
家賃が高い。
貯金ができない。
家が買えない。
結婚が後ろ倒しになる。
子どもはさらに遠のく。
そしてここに、産業の偏りが上乗せされる。
半導体・IT側は伸びる。
でも都市を支えるサービス業(飲食・小売・物流・介護など)は、賃金が上がりにくい。
結果として、同じ台北の中に
- 給料が伸びて生活に余裕がある層
- 物価と家賃に追われて普通にしんどい層
が同居しやすくなる。
信義区のキラキラは台湾が発展した証左であり、決してハリボテでなはい。
でも、そのキラキラが強いほど、生活の差も同じ街に出やすい。
3. 2056年:人と仕事は西側ラインに集まり、無人化が進む
地政学リスクが“現状維持”で推移する前提で言う。
人口と産業は、より西側ラインに寄りやすい。
台北〜新竹〜台中〜高雄の回廊に、大学も企業も雇用も集積していく。
そして少子化が進むほど、「人手不足を技術で埋める」が当たり前になる。
物流、工場、介護、軍事。
“人がいないからAIとロボで回す”が、理想ではなく現実として進む。
台湾はスマートでスピードが速い。
だから導入も速い。
でもそのぶん、生活のしんどさが表に出るのも速い。
4. 日本の方がまだ”マシ”である理由
理由はシンプル。
- 産業構造が相対的に多様(稼ぎ頭が一つに寄り切ってない。)
- 少子化は深刻だが、出生率はまだ1.1〜1.2を維持しており、台湾ほど急降下ではない(調整の時間が残る)
- 国土が広く、生活の選択肢がまだ残っている(都市一択になりにくい)
特に1に関して言うと、日本の稼ぎ頭である自動車産業が、部品も含めると輸出全体の20%前後を占めるのに対して、
台湾は半導体等の電子部品が、全体の4割を占めるまでになっている。
台湾経済が強いのは事実だが、それは「電子部品一本足打法」が特大ホームランをかっとばした結果とも言える。

これをみると一目瞭然だが、半導体・電子部品以外で、グローバルに稼いでいる企業が、多くない。
とくにBtoCが弱い。良い部品をつくるのは得意だが、最終商品としてブランディングし、高付加価値化するのが、不得手。
たとえばホンハイ(FOXCONN)が、自社ブランドではなくAppleのOEMに徹する事で巨大企業になった一方で、自社スマートフォンのブランド育成を堅持したHTCは、一時会社の時価総額が手元のキャッシュを下回るほどに、毀損した。
グローバルで戦える産業が、半導体しかない。現在の半導体特需が終われば、台湾経済はまちがいなく急速に冷え込む。
結論:次の一手までの持ち時間
2025年の GDP 8.63% は、圧倒的だった。
ただ同じ年に、出生数は 107,812人まで落ちた。
台北の住宅は、所得倍率が 約16倍という水準にある。
この3つを同時に見ると、30年後の景色は見えやすい。
台湾は強いまま生き残る可能性が高い。
その一方で、「勝ち組都市」と「しんどい生活」が同居する。
40年前、政府がTSMCのモリス=チャンを呼び、新竹にサイエンスパークを構築し、国策として半導体にフルベットした選択は、圧倒的に正しかった。
次の一手はどうか。
半導体が活況なうちに、新たな産業の柱を育まなければならない。残された時間は、そう多くない。
